あれは、彼女と付き合って、3回目くらいのデートだったか。
座敷の小さい個室。
梅酒が有名な居酒屋で夕食を食べていた。
僕は梅酒を5杯くらい飲んで、いい気持ちになってきたくらいのこと。
彼女が自分のリュックから、髪を結ぶゴムを取り出そうとした時だった。
スッと、リュックから何かが落ちた。
彼女は急いで、「その何か」をリュックに戻した。
彼女の急いでいる様子から、僕は「見てはいけないものだ」と瞬時に思い、すぐ目を逸らした。
その時、僕は「その何か」がはっきりわからなかった。
が、彼女のあの焦り方を見て、僕にバレたくないものだということは察知できた。
バレたくないもの。
バレたら、嫌われるもの。
一般的に持っていたらダメなもの。
普通の人は持っていないもの。
一瞬だけだったが、「その何か」の色と形は脳裏に焼き付いていたため、その記憶を頼りに何か探った。
細長いもの。
ピンクと銀色。
銀色が光っている。
そして、「あるもの」が1つ思い浮かんだ。
その「あるもの」はなにか、僕は信じることができなくて、他の候補を探してみたものの、しっくりくるものがなかった。
僕は信じたくはなかった。
もし、その「あるもの」であった場合、受け入れられる自信がなかったから。
その日は、「あるもの」には触れずに解散。
そして、その話題には触れず、1週間の月日がたった。
彼女が僕の部屋に来た時のこと。
「課題をやらないといけない」と、彼女がリュックから参考書を取り出そうとした時だった。
なんとなく目をやったリュックの中から、1週間前に見た「あれ」が見えてしまった。
そこで、疑惑から確信に変わった。
「剃刀だ」
完全に剃刀だった。
剃刀=リストカット。
瞬時にイメージできた。
ゾッとした。
好きな人だったけど、怖かった。
信じたくない事実に、頭が働かない。
それから、彼女が課題をやっている最中、僕は剃刀のことしか考えられなかった。
ふと、思った。
今まで手首をじっくりみることもなかったため、気づいていなかった?
恐る恐る、彼女の手首を見ると、
傷は何もなかった。
まだ白か黒か、どっちかわからない。
直接聞いて、もし白だった場合を考えると、直接はさすがに聞けなかった。
どっちか気になって仕方がない。
など、いろいろ考えた。
考えて、彼女との会話にも身が入らない。
何を話していたのかも、よく覚えていない。
「もしリスカしていたら。。」と考えると、不安で不安でしょうがない。
かなり揺れていた。
呆然としている僕に、彼女は
課題がわからなかったみたいで、僕は彼女の隣に座った。
教えている最中も、頭には剃刀がある。
そして、ふと、参考書を持っていた彼女の左腕を見ると、
何か違和感があった。
何かおかしい。
手首の色が違う?
何かを貼っているような。
わかりづらいけど、よく見ると手首に肌色の何かを貼っていた。
確実に「手首の傷を隠している」ということがわかった。
僕は、これ以上放っておくことができなくなり、言ってしまった。
無音の時間。
絆創膏の話にすり替えようとしたんだと思う。
ただ、かなり動揺していたので、それがウソだということは、僕でもわかった。
もうここまで来たんだから、言うしかないと思い、真剣な顔で
彼女は黙り、一言。
急に泣き出してしまった。
号泣。
人ってこんなに泣くのかってくらい。
僕も泣くとは思っていなかったため、かなり動揺した。
「大丈夫?」と声をかけながら、泣き止むまでずっと慰めていた。
10分くらいで泣き止んでくれ、彼女は口を開いた。
彼女は首を縦に振った。
彼女はもちろん、僕もこの時はかなり動揺していたため、何を言えばいいのかわからず、言葉に詰まった。
前の彼女もメンヘラだったけど、リスカする人は初めてだったから。
沈黙が流れ、その間、僕は頭をフル回転させた。
そして、
彼女は何回も頷き、また泣き出してしまった。
その日は、僕は衝撃の事実を知って、頭がぐちゃぐちゃだし、彼女もずっと泣いていて話せる状態でもないため、一旦彼女を家まで送り届け、別れた。
この時はまだ、これが僕の地獄の始まりであることは知る由もなかった。
精神的に病んで寝込む。
ストレスで髪の毛がボロボロ落ちてくる。
自傷行為を無理やりやらされそうになる。
本気で◯されそうになる。
今でも「あの時、すぐ別れていたら、僕の大学生活も変わっていたんだろうな」と思い返す時がある。
後悔しても、もう戻ってこない。
※このお話は、僕の実体験です。ただ、記憶が曖昧な部分もあるため、言葉の言い回しが異なっている部分もあります。
※「続きが気になる!」という方は、こちらにご連絡ください。気になる人が多ければ、続きを書こうと思います。